音訳ボランティアのための著作権セミナー(2022年)参加報告

目次

1. 概要

以下のセミナーに参加しましたので、ご報告します。

音訳者・音訳ボランティアのための著作権セミナー

主催
日本図書館協会
企画・運営
障害者サービス委員会関西小委員会
日時
2022年8月6日 10時30分から16時40分
場所
Zoomによるオンライン

日本図書館協会主催の著作権セミナーが開かれたのは2年半ぶりとのことです。 これまでは関西または関東で、現地に人を集めて開催されていました。 オンラインでの開催は今回が初めてです。

定員300名のところ、200名弱の聴衆が参加しました。 聴衆はビデオをオフ、マイクをミュートすることを求められ、質問はチャットで文字を書き込んで、最後にまとめて口頭で回答される方式でした。

2. 内容

最初に著作権に関するクイズが出題され、次に4人の講師の講演が1時間ずつあり、最後に質疑応答とクイズの答え合わせがありました。

セミナー直後には、 Google Form を利用したアンケートへの記入が求められ、そのアンケートの最後にもクイズが出題されていました。アンケート内のクイズの答え合わせは、後日メールで送信されました。

2.0. あなたの著作権知識のチェック

最初に「あなたの著作権知識のチェック」というクイズが出題されました。聴衆がマルかバツを選びます。Zoomでの挙手がマル、非挙手がバツという判断を表します。正解はセミナーの最後に説明されました。条文の知識があっても、それを現実の問題に当てはめようとするとなかなか難しいものですね。私は10問中2問を間違えていましたが、説明されれば納得するものでした。

2.1. 著作権法の考え方とその概要

1時間目は録画放映でしたが、文化庁著作権課の森下元文(もりしたもとふみ)さんの講義で、日本の著作権法の歴史や基本的考えについて。

「1931年にドイツ語教師が欧州の音楽著作権管理団体の代理人として日本で著作権使用料を徴収し始めたが、日本での著作権意識が低くて大混乱」という話が印象に残りました。

2.2. 音訳ボランティアに必要な著作権法条文とその解説

2時間目以降はリアルタイムの講義です。2時間目は大阪府立中之島図書館の小原亜実子(おはらあみこ)さんによる、音訳に関係する著作権の解説。

条文の読み方から丁寧に解説してくださって分かりやすいものでした。ただ、私はこれに関して6つの質問をしましたが、どれについても「本法人の著作権委員会、あるいは出版社の団体と確認しないと回答できないものばかりと見受けられました」とのことで、今月中に各所へ確認し、回答可能かどうか協議を行うとのことでした。

私の質問内容は以下のとおりです。一部の質問については、9月14日にメール添付で参加者たちに回答が配布されました。その中では、以下の質問のうち、6番目に対してのみ、回答が得られました。

  1. EPUB3規格はDAISYの配布用フレームワークの要請を含む規格になっていると認識しています。根拠:
    Planet 2010-11 | DAISY Consortium (Internet Archive)
    市販の電子書籍にはEPUB3形式のものがあります。しかし、そのほとんどは、適切な画像説明が付いていないなど、WCAGのレベルAA以上の条件を満たしておらず、アクセシビリティの観点から欠陥があるものです。
    その一方で、著作権法第三十条1項二号により、私的使用であっても市販の電子書籍のDRM解除が違法になるものと認識しています。
    このような法制下で、市販の電子書籍からDRMを解除して、WCAGのレベルAA以上になるように改造することにより、アクセシブルなEPUB3書籍を制作し、必要な利用者に図書館が配布することは合法ですか?
  2. 市販電子書籍と同じ書籍の墨字本からスキャンとOCRを通してアクセシブルなEPUB書籍を制作した場合、電子書籍のDRM解除から制作したものとほぼ同じEPUB3書籍が出来上がりますが、これを必要な利用者に図書館が配布することは合法ですか?
  3. 仮に、市販電子書籍のDRM解除によってアクセシブルなEPUB3書籍を制作配布するのは違法である一方、墨字本からスキャンとOCRを通してほぼ同じEPUB3書籍を制作配布するのは合法である場合について。両者はデイジー版製作者の手間が違うだけで、完成するEPUB3書籍の内容は同じです。実際の作業ではDRM解除によってアクセシブルなEPUB3書籍を制作し、原本ISBNについての記述で墨字本の方を参照しておけば、DRM解除をしたかどうかをそのEPUB3書籍から知ることはできません。これを必要な利用者に配布しても違法という判断がなされない、という認識で良いですか?
  4. アメリカではUS Copyright Officeが、アクセシビリティのために電子書籍のDRMを解除することを認めるという規則を2021年10月28日に発表しました。
    Blind People Won the Right to Break Ebook DRM. In 3 Years, They’ll Have to Do It Again | WIRED
    Exemption to Prohibition on Circumvention of Copyright Protection Systems for Access Control Technologies (pdf)
    日本では同様の方向への動きはありますか?
  5. European Accessibility Act と呼ばれる2019年のEUの指令によって、EU加盟国では2025年6月28日以降に出版される電子書籍をアクセシブルな形式にすることが義務付けられました。
    Directive (EU) 2019/882 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on the accessibility requirements for products and services (Text with EEA relevance)
    新たに出版される電子書籍をアクセシブルな形式にするよう、出版元に義務付ける法律を制定することについて、日本で何らかの動きはありますか?
  6. 市販のオーディオブックには、市販されている文字の本をナレーターが読み上げたものも多くありますが、文字の本にある図表などの説明をせず、ダウンロード可能な画像ファイルとして添付されているだけのものが多いです。論説や実用書では、ナレーターが演劇のように読んでいるわけではなく、淡々と読み上げていますが、画像説明の欠如がある点で、視覚障害者に不都合です。このような書籍の正しい音声デイジー版を制作し、必要な利用者に図書館が配布することは可能ですか?
    • 回答:
      「図表を画像ファイルとして添付したもの」を、「図書館の障害者サービスにおける著作権法第 37 条第 3 項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」の第 6 項でお示ししています。
      「当該視覚著作物にアクセスすることを保障する方式」のどれにも当てはまらず、市販されているものが「9 (1) a)当該視覚著作物の一部分を提供するもの」や「9 (1)c)利用者の要求がデイジー形式の場合、それ以外の方式によるもの」に当たる場合には著作権法第 37 条第 3 項ただし書に該当しないものとして、音声デイジー版を製作し、必要な利用者への提供ができると考えます。

2.3. 政令指定グループへの登録及び国立国会図書館の視覚障害者等用データ送信サービスのデータ提供を考えている方のために

3時間目は国立国会図書館の障害者図書館協力係の職員で、全盲の利用者でもある杉田正幸(すぎたまさゆき)さん。講義内容は、音訳ボランティアグループが、音訳データを国立国会図書館に納本できる団体となるための手続き方法について。

サピエ図書館とのデータの連携についても説明がありました。私が特に皆さんにお知らせしたいのは以下のことです。

サピエからは点字とDAISY2.02データしかダウンロードできません。 国立国会図書館からはそれ以外に、epub (音声付き・音声無し)、透明テキスト付きpdf、ワード docx、プレーンテキスト txt、海外から取り寄せたデータ (ABC Global Book Service) をダウンロードできます。

それなのに、国立国会図書館の障害者向け資料の個人利用登録者はたったの 489名。サピエの個人会員 19503名と比較して、極端に少ないです。

国立国会図書館の障害者向けサーチが使いにくいという問題もありますが、これについては使いやすく変更されたベータ版が令和4年度末に提供開始される予定とのこと。この機会に、国立国会図書館の障害者サービスの個人利用登録者が増えると良いと思います。

2.4. 全国音訳ボランティアネットワークの活動紹介及び図書館・ボランティアに望むこと

4時間目は全国音訳ボランティアネットワーク(全国音ボラ)代表の藤田晶子(ふじたまさこ)さんから、活動の紹介と、図書館やボランティアに望むことについて。

全国音ボラも、国立国会図書館にデータを納本できる団体として登録されています。特に児童書のDAISY図書を納本していきたいそうです。

「子どもの本棚プロジェクト」を進めているそうです。これについては以前、大川会長を通して、音訳者募集のお知らせをいただいたことがありました。全国から音訳者を募集して制作を進めているそうですが、読みの水準が低すぎる、事務局ではすべてを検品できないが、せめて仕様書どおりに作って欲しいと嘆いていらっしゃいました。

また、読書バリアフリー法があり、視覚障害者の情報保障の観点から、音訳はいつまでもボランティア頼みのものであってはならないともおっしゃっていました。明言されませんでしたが、それなりの職業として報酬が支払われるシステムが作られることを暗に望んでいらっしゃるものと、私は察しました。

音訳者は高齢化する一方で、現状のままでは肉声での音訳は消滅しそうだが、日本独特の音訳は文化であり、なくしてはいけないとのお考えでした。音訳者消滅の危機をどう考えるかについて、利用者側の意見が何も聞こえてこない、利用者は図書館に行けば音訳してもらえるので、危機感を持っていないようだとおっしゃっていました。

私の意見としては、音訳者が不要になってこそ、本当の読書バリアフリーが実現すると考えているので、藤田さんのお考えには賛成しかねる部分もありますが、音訳者が職業として報酬を支払われるシステムを作るべきだということを示唆されているのだとすれば、その点には賛成です。

3. 質疑応答

講演は以上で、このあとは最初のクイズの答え合わせと、質疑応答でした。上述したように、私の質問に対する回答はすべて保留にされました。他の参加者からの質問に対しては、以下のように回答されたもの・されないものがありました。

同人誌等のうち、著作権的にグレーな著作物の音訳製作をしても良いか?
個別の事例についてご質問ください。
第二十条の同一性保持権について、目的上の改変が許される例として、学校教育の目的以外(難読漢字をひらがなに直す等)で、実際の音訳での事例は?
後日あらためて回答。
ディスレクシアの診断をする機関が少なく、医師の診断書を得るのは非常に難しく、障害者手帳の交付もされない。このような利用者のための利用登録を考慮してほしい。
ディスレクシアの認定についてはガイドラインも参照して対応。
音訳者たちは、勉強のために他の人が製作したデイジー版を聞きたがっている。研修会等で部分的に試聴することに著作権法上の問題はあるか?問題ない場合、デイジー版製作者の許可が必要か?
音訳者はデイジー版利用対象外なので、自由に聞くことはできない。
校正者として関わる形で他人の録音を聞くことは可能。
研修会で数分間だけ流すのは引用となるので可能。
国立国会図書館との覚書を結んでマルチメディアデイジー図書やEPUB3図書を制作する場合、国立国会図書館からその書籍のpdf等のデータの提供を受けられるか?
できない。

4. おまけ

セミナー後のメールでのやり取りで、杉田正幸さんから8月22日に、EPUBアクセシビリティのJISが以下のように制定された旨、お知らせいただきました。

規格番号
JISX23761
規格名称
EPUBアクセシビリティ-EPUB出版物の適合性及び発見可能性の要求事項
主務大臣
経済産業
制定年月日
2022/08/22

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日本産業標準調査会:データベース検索-JIS検索

私はその内容を見て、この規格が、2017年の EPUB Accessibility 1.0 を踏襲するものであることを確認しました。 今後、全ての電子書籍の出版物に対して、この規格に準拠することが法令で義務付けられるかどうかについて、さらなる情報が出ることを期待しています。